これからの食シーンを生み出していく30歳以下の飲食人たちが集まるオンラインサロン「Food HEROes U-30 COMMUNITY」では、サロンメンバー限定で月に1回のペースで産地訪問を実施しています。
10月22日には、サロン開設直前のプレ企画として実施した産地訪問には、日本料理の料理人、果実店輸入職、出張料理人など、料理や働き方の多様な30歳以下のメンバーが参加しました。
生産者さんとの交流とともに同世代の横の繋がりを深めることも目的にする今回のツアーで、参加者たちは何を感じ、何を得られたのでしょうか。
ほおづきは、若いからこそ抵抗なく食材として受け入れられる |結農実WORKS
都内を出発して向かったのは、茨城県北東部にある高萩市です。都内から車で2時間半ほど、高萩市は海と山に挟まれた土地で、農業や畜産が盛んな地です。
JR高萩駅から車で30分ほど、県道111号線をまっすぐ山に走らせて到着したのは山間部、君田地区にある「結農実WORKS(ゆのみワークス)」に着くと、笹川雄也さん・美奈さん夫妻が出迎えてくれました。
結農実WORKSがある君田地区は、かつて江戸時代に水戸藩の馬を放牧していました。そんな歴史ある集落で笹川さん夫妻は、有機JAS認証を取得した畑で、オーガニックの食用ほおずきである「高萩ほおずき」のほか、野菜を育てています。
高萩市で収穫される「高萩ほおずき」のシーズンは8月下旬から10月下旬です。例年より暑い日が続いた高萩市ですが、訪問した日は収穫期の終盤でしたが、今シーズン一番の寒さで美奈さんは、「最後のほおずきが霜にあたらないか心配でしたが、なんとか大丈夫でした」と、ホッとした様子で話してくれました。
笹川雄也さん
笹川美奈さん
収穫前のほおづき。
笹川さん夫妻は、ともに福島県いわき市出身で、実家がサラリーマンなのも同じ。出会った当時は、二人でバイヤーになろうと話していたといいます。その後、さまざまな出合いと経験のなかで農家になることを決意すると、2014年に長野県でほおずきに出合って魅了され、ほおずき農家を募集していた高萩市に移住してきました。
2017年に結農実WORKSとして就農し、自分たちで育てた食用ほおずきを「高萩ほおずき」と名付けて販売しています。とくに笹川さん夫妻は「料理人の方々にほおずきの美味しさや魅力を知ってもらうことを大事にしています」といい、料理人に使ってもらうことで「高萩ほおずき」の付加価値やブランド力が高まり、魅力をさらに伝えることができると考えています。
水戸市を中心に、茨城県内や都内のレストランに卸している結農実WORKSのほおずきは、トマトの代用として使ったり、鉄板の上でグリルしたり、魚醤のジュレにあわせたり、ほおずきの蜜煮、ほどよい酸味と甘さがマッチする白和えなどの料理に使われ、ほおづきの可能性を広げているのです。
結農実WORKSでは、食用ほおづきのなかでも酸味と甘味のバランスがよく栄養価の高いゴールデンベリーを育てています。
「夫婦2人、60〜70haの畑で3,000本のほおずきを育てているのはうちだけ。それに、ほおずき農家は限られており、大量生産が難しい農作物なんです」と笹川さんは話します。ナス科で南米原産のほおずきは、毎年同じ株から実がなる多年草ですが、結農実WORKSでは、標高500mに位置する君田地区に合うほおづきにしていくためにも、種は自家採取にこだわり毎年株を植え替えています。
日本では、ほおづきは観賞用として知られていることもあり、とくに年配の人からは「苦くて美味しくないんじゃないのか」「本当に食べられるのか」という反応が返ってきてしまい、受け入れてもらうのに時間がかかることが多いといいます。
一方で参加メンバーのひとりである河村勇作さん @ゆうさく は、勤めている店で食用ほおづきを使っていて、ほおづきは食用であることが当たり前だと感じていたといいます。
「おいしい果物という感じです。むしろ観賞用があることを知らなかったくらいです。なので観賞用ほおずきがどんなものかが、逆に気になります」と河村さん。年代による受け止め方の違いを聞いた笹川さん夫妻は「むしろ固定観念のない若い人たちにも、もっとほおずきを食べてもらえたら、新しい活用法など生まれそうですね」と、若い世代へのアピールの可能性を感じていたようです。
「農業経験が乏しい自分達がどのように利益を出すかを考えた時に、農業一本でやるのは難しいだろうなと思いました。そもそも一般的な親元就農ではないので大量生産ができない。そのため、まずは独自の加工場をつくり、加工品販売で安定的な収入を確保してから作物を育てようと考えました」と笹川さん夫妻。ほおづきを使った加工品やお菓子なども販売している。
河村勇作さん
「開墾精神と日々のリアルな生活環境を学ぶことが出来大変勉強になりました」と伊藤康紀さん。
畑を見学しながら、ほおずきの説明や、高萩市の地で農業をされている笹川さんたちの苦労や、それを乗りこえてきた強い想いを真剣に聞きます。
「結農実WORKSの "WORKS" は、仕事ではなく"作品"という意味なんです。僕たちが手がけた大切な作品を、料理人の方々に手渡したいですね」
料理人とのつながりを大事にしている二人は、DIYした古民家でイベントができるようにと飲食店営業許可を取得。20代の料理人が積極的に活用できるような場所にしたいと語ります。
また、結農実WORKSの由来である「農を通して人や自然を結び、豊かな人生にしたい」という思いを、DIYした場所や若い人たちの交流で実現したいといます。
食材は勝手に包装されて厨房に届くものではない|柴田農園
次に訪れたのは、JR高萩駅から程近くにある柴田農園です。出迎えてくれた柴田祥平さんは、柴田農園の三代目です。花壇苗などを生産する農園でしたが、現在は柴田さんが中心となってエディブルフラワーやハーブ、野菜や米などを育てています。
自己紹介をするうちに柴田さんのやわらかい雰囲気に心を掴まれた参加メンバーたち。これからどういった体験や話が聞けるのでしょうか。
柴田農園は2023年の5月にビニールハウスを拡大し、現在は約200種類ほどのエディブルフラワーとハーブを育てています。訪れた10月は、昼夜の寒暖差で味や色がしっかりついてくるので、ハーブにとって一番いい時期だと柴田さんはいいます。ビニールハウスを一つずつ巡り、丁寧に説明しながら案内してくれます。
柴田農園の柴田祥平さん
「何か食べたいのあります?」と気さくに声をかけてくれる柴田さん。さまざまなエディブルフラワーやハーブをその場で摘んで食べさせてくれます。
また、知識豊富な柴田さんは、参加した料理人のジャンルに合わせて「ベゴニアは花だけではなく葉も食べられるので、日本料理にもけっこう使えると思いますよ」などと、惜しみなくさまざまなアドバイスをしてくれました。
畑の区画ごとに、異なるマイクロハーブを育てているビニールハウスでは、なるべくたくさんのハーブを育てるために人が通れる道を細くしているので、参加者はまるで平均台を渡っているかのようにバランスをとりながら一歩ずつ進んでいきます。
柴田農園では、マイクロサイズのハーブを常に出荷できるように、区画やハウスを分けて3日おきに種をまき、基本的に1.5カ月〜2カ月で育て上げて出荷できる体制を整えています。
参加したメンバーからは、「一日中いられますね」との声も。「面積が増えた分、植え付ける場所も多くなりました」と柴田さんは楽しそうに答えてくれました。私たちもさまざまな花やハーブを試食させてもらい、驚きと発見の連続でした。
「こんなに種類があると毎日の管理が大変なのでは?」という質問には、「水を撒くチューブで自動的に朝夕水やりができるし、ハーブは生命力が強いので毎日お世話しなくても大丈夫。どちらにせよ毎日収穫しているので、歩きながら観察して気がついたときにお世話している」といいます。
他にもハーブやエディブルフラワーに関する質問がとんでいました。
「ハーブのことなどいろいろと知れて、自分の料理にもっと活用していきたいと思いました」と大林蒼也さん。
産地を訪ねるということは、忙しい生産者さんの仕事をとめ、貴重な時間をさいてもらっているともいえます。その時間に対して、たとえばレストランのシェフであれば店で使うためにすぐに仕入れることができますが、FHゾーンの多くはまだ決定権のないポジションであることが多く食材をすぐに仕入れられなかったり、出張料理などで使うにしても少量で使うことしかできません。
極端なことをいえば、生産者さんにとっては魅力の薄い訪問者であり、場合によっては見学して終わりで、時間の無駄になってしまうこともあります。そんな条件でも、サロンメンバーの訪問を受け入れたくれた柴田さんは、「お互いにプラスになることはかなりあると思いますよ」とやさしい笑顔で答えてくれます。
「自分たちが使う食材がどのように育ち、どういう人が管理しているのかを知っていると、仕入れた食材の大切さを実感すると思うんです。それに生産地の畑を見ることで、料理のイメージがわいてくる料理人もいますよ」
花が包装パックに詰まって届くのを見ているだけの人と、花が育っている様子をわざわざ見にきてくれた人とでは、生産者側の心情も異なってくると柴田さんはいいます。「大事に使ってもらえている感覚がするので僕たちも嬉しい」との言葉に、参加したメンバーそれぞれが考えることも多かったはずです。
柴田さん自身も、実際にハーブやエディブルフラワーを卸しているレストランに食べに行くそうです。料理人との繋がりを大事にしている柴田さんの「若いうちから生産者のもとに足を運び、コミュニケーションをとる取り組みは大事だし、絶対にプラスになるよ」という言葉には説得力があります。
最後に事務所で、ハーブやエディブルフラワーをドライ加工したハーブソルトを試食させてもらうことに。大きすぎて売れないサイズになったハーブは、これまでロスになっていたものが現在は余すことなく加工してハーブソルトを販売しています。生のハーブとは異なった美味しさに、一同大満足でした。
2023年春に建てたハウスでは、家族や友人と食事をしたりワークショップを開催しています。今回の参加メンバーで出張料理を生業にする料理人に、「ぜひうちで料理を作りに来てほしい」と熱心に声をかける柴田さんから、普段から料理人との縁を大切にされている人柄が垣間見えます。
全ての案内が終わる頃には日が暮れかけていましたが、「なかなかない機会だったと思います」と真摯に迎え入れてくれた柴田さん。その人柄が、育てている食材の美味しさに直結する。そんなことを参加者全員が身をもって実感した訪問でした。
ランチを食べながら深め合った同世代える、FH世代との繋がり
ちなみに昼は、茨城県指定文化財で築二百年以上の茅葺古民家『穂積家住宅』の中にある古民家レストラン「高萩茶寮」で昼食をとりました。こちらでは結農実WORKSの高萩ほおずきや柴田農園のエディブルフラワーを使った料理を食べることができます。
ほおずきは「高萩ほおずきパフェ」に、エディブルフラワーは高萩の里山をイメージした「サーモンといくらの野菜ちらし寿司」で味わうことができます。食事中は参加メンバーが卓を囲み、茨城が誇る素材を生かした料理を堪能しました。
生産者–参加者、参加者–参加者がともに支え合い応援し合える関係に
今回訪問した2組の生産者さんとも、若手との繋がりを大切にし若手飲食人を応援してくれました。Food HEROesの取り組みにも深い理解を示してくれました。産地訪問が「当たり前ではない」なかでも快く引き受けてくれたことに、この場を借りて御礼を申し上げます。
なおFood HEROesの産地訪問では、生産者さんと参加者、参加者同士の深い理解を目指すため、各生産者さんのもとでの滞在は1時間半ほどと長い時間をとっています。
今後はサロンメンバーに向けて、年間10回ほどの産地訪問を企画中。食材の王国と言われる茨城はもちろんのこと、東京近郊でも訪問ツアーを開催予定です。
生産者さんの想いを現地で受け取りながら、さまざまな価値観を持った同世代との繋がりを深める。さらに産地訪問で得たことを表現するイベントなども企画していこうと考えてます。
食に関わる多様な人たちと出会って、たくさんの刺激を得ながら自分自身も成長していく。Food HEROesはそういったコミュニティをこれから作り上げていきたいと思います。
Food HEROes U-30 COMMUNITYでは新しい仲間を募集中です!
☑第2期メンバーを11/29(木)まで募集中!
https://community.foodheroes.jp/about
募集期間 ~11/29(水)
入会メール送信 11/30(木)
入会登録が完了次第 OSHIRO社のクローズドのサロンスペースにログインできます。
☑11月の活動実績
・オリエンテーション
・著名シェフのレストランでのオフ会
・同世代料理人を招いたオンラインインタビュー
・生産者訪問
☑会員費 3,300円/月(税込)
☑会員条件 30歳以下で食の仕事に携わる、または興味をもつ人
・外食店に勤務する料理人、サービススタッフ(アルバイトを含む)
・フリーの出張料理人やソムリエ
・フードライターやフォトグラファーなどのクリエイター
・食関連のメーカー勤務
・農家、漁師など1次産業従事者
・若手料理人やソムリエが推し
☑こんなことが可能です
・将来をともにする仲間を見つけたい
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Coordinate by Megumi Fujita @ふじた めぐみ
text by Akina Sunami
photos by Akina Sunami, Ichiro Erokumae
edit by Ichiro Erokumae @えろくまえさん