「ブイヤベース」は、ポトフやラタトゥイユと並んで日本で知られている代表的なフランス料理のひとつだ。南フランスのプロバンス地方の郷土料理で、魚を鍋で煮て出汁をとってスープにし、出汁をとった魚を具材として食べる食べ方は、鍋料理をほうふつとさせることから、日本人に受け入れやすかったのかもしれない。

しかし、似た料理があるからこそ日本風に解釈されたブイヤベースも多く存在し、かえって「本物のブイヤベース」を食べたことがない人が多いのも事実だろう。

2023年12月7日に東京・赤坂のレストラン「KIGI」で開かれた「La Calanque Blue RESTAURANT 東京」は、マルセイユ近郊のホセ=レ=パンで1946年に創業し、三代にわたってブイヤベースを提供する「ラ カランク ブルー(La Calanque Blue)」のオーナー・イバン ヴァアニアン氏(トップ画像)をはじめ、料理人からサービスまで総勢20名ほどが来日し、「本物のブイヤベース」を振る舞う一夜限りの特別ディナーが開催された。




_DSC_2084.jpg 1.1 MB前日の朝にホセ=レ=パンの港に揚がった魚は、この日の午後に届いた。

DSC_2035.JPG 3.85 MBDSC_2037.JPG 3.86 MBイベントにはおよそ70名が参加した。


マルセイユでの食体験をそのまま日本にもってきた

「本物のブイヤベース」についてヴァアニアン氏は、マルセイユ港に揚がる地中海の5種類の魚を使うことを挙げる。カサゴ(Rascasse)、ハチミシマ(Araignée、Vive)、ホウボウ(Galinette、rouget grondin)、西洋アナゴFielas(Congre)、マトウダイ(Saint Pierre)だ。

今回のイベントでも、マルセイユの港に朝、水揚げされた5種の魚がその日のうちに飛行機に乗せられ、次の日の朝に日本に到着。すぐさま会場に届けられた。

さらに厨房とホールの総勢20名ほどのスタッフもあわせて来日。魚だけでなく、スパイスやミネラルウォーターまで持ち込んでラ カランク ブルーを完全に再現しようとしているのだ。

ヴァアニアン氏は、「将来的にブイヤベースがユネスコの無形文化遺産に登録されることを目指している」といい、今回のイベントは、それにむけての五大陸ツアー「ブイヤベースチャレンジ(Challenge bouillabaisse)」の一環であるという。ツアーは、すでに2019年と2021年にアメリカ・ニューヨークで開かれており、東京で3回目。魚をよく食べる日本なら、ブイヤベースを深く理解できるだろうという期待から開催地に決まった。

なお、次回はオセアニアでの開催を目指している。




_IMG_1515.jpg 2.36 MBオープニングセレモニーでは、マルセイユ出身で現在はニューヨークにあるフランス総領事館のメートル・ド・テル(支配人)であるザビエル チボー氏が登壇し、メッセージを伝えた。
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オープニングセレモニーで話すヴァアニアン氏。


ブイヤベースの正しい食べ方

当日は、トマトのブルスケッタが前菜で出た後、ブイヤベースのスープがテーブルに運ばれてきた。スライスしたバゲットにブイヤベースにかならず添えられるニンニク入りのマヨネーズ「ルイユ」をのせたバケットがスープに浮かんでおり、削ったグリュイエールがかかっている。スープから食べ始めるのは、ラ カランク ブルーと同じ提供方法であり、ブイヤベースの正しい食べ方でもある。

DSC_2064.JPG 4.2 MBトマトのブルスケッタ。
_DSC_2110.jpg 838.04 KBブイヤベースのスープ。

続いて、5種類の魚が盛りつけられた別の皿が運ばれてくる。ひたひたにはったスープとともに魚を食べる。なお、スープはおかわりできる。この日は、スープが途中でなくなってしまうほど参加者に好評だった。
_DSC_2113.jpg 949.98 KB5種類の魚が盛りつけられたメイン。

デザートは、ヌガー アイス(ヌガー グラッセ)とラズベリーソースの一品。ヌガーとは木の実を砂糖やハチミツで固めたもので、プロヴァンス語で「クルミの搾りかす」を意味する「nogat」が語源の伝統的なレストランのデザートだ。

_DSC_2122.jpg 676.04 KBヌガーアイス、ラズベリーソースのデザート。


日本の若い料理人に本物のブイヤベースを学びに来てほしい

ブイヤベースは、古代ギリシアの数学者ピタゴラスやアルキメデスも愛したという魚のスープに由来します。その歴史は2600年以上。伝統的な食材、調理法、提供方法を次の世代に伝えていきたいです」とヴァアニアン氏はいう。

「ユネスコの無形文化遺産に登録されるには10年ほどの時間がかかると思います。長いチャレンジになりそうですが、幸いマルセイユにはこのチャレンジに協力してくれる人がたくさんいます。そのなかには、若い料理人たちもいるんですよ。登録されたら、ぜひ日本の若い料理人のみなさんもマルセイユに来て、本物のブイヤベースを学びにきてほしいです」

古来、魚が主食だった日本人だからこそ「本物のブイヤベース」を学ぶことで、日本文化の気づきが生まれるはずだ。
_IMG_1558.jpg 865.8 KB最後に来日したスタッフ全員がそろって挨拶をした。
_IMG_1505.JPG 2.68 MBヴァアニアン氏。

La Calanque Bleue
D49, 13960 Sausset-les-Pins, France
https://www.restaurant-la-calanque-bleue.com/


text & photos by Ichiro Erokumae (Food HEROes)

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