「フラクタル構造」という図形を知っているだろうか。ある一つの物の中によく見ると同じ形の物があり、その中にも同じ物がある…という、つい目を凝らして見てしまう面白い構造のことで、雪の結晶や巻き貝、タコ足など自然界に多く存在している。
このフラクタル構造が多く存在し、日本人には馴染みのない野菜の一つにロマネスコという野菜がある。カリフラワー科に属するこの野菜は正式名称をブロッコリー・ロマネスコといい、ローマのブロッコリーという意味を持つ。ちなみに、ブロッコリー(アブラナ科)とカリフラワー(カリフラワー科)は形状は似ているものの、別の科に属する野菜である。
面白いことにロマネスコは、芯の形状はカリフラワーやブロッコリーに似ているが、頭の部分は突起の多いドリルのような形状がみっちりと繋がって立体を作っている。この突起をよく見るとまたドリルの形があり、これがフラクタル構造になっているのだ。16世紀にローマで誕生したこの野菜は、味はブロッコリーに近く、食感はカリフラワーに近いらしい。
さて、2026年にブロッコリーが日本「指定野菜」の仲間入りを果たすことは知っているだろうか。「指定野菜」とは、国が定めている特に国内消費の多い野菜を示したリストのことで、現在は人参やトマト、ナスなど14品目が指定されている。
2年後にブロッコリーがこの中に登録されると、最後に追加されたじゃがいも以来50年ぶりの「指定野菜」追加なのだという。弁当の彩り、定食の付け合せ…日常に浸透しすぎていてむしろ今まで追加されていなかったのが意外と思うほどブロッコリーは身近な野菜である。
「指定野菜」に追加されるメリットとして、将来何らかの理由で値段が下落した場合でも生産者は国の保護を受け来年からの生産を支援してくれる仕組みがあるのだそうだ。
ブロッコリーが今回「指定野菜」に選ばれた理由として、人口減少による野菜の出荷減少が著しい中、ブロッコリーの出荷量は10年で3倍に増えたことが挙げられている。手軽に入手できて、栄養が豊富、そして緑黄色野菜に入っていること、また調理が楽で冷凍食品としての流通も多いことが出荷量増加の理由のようだ。
ブロッコリーはヨーロッパ地中海近郊で生まれ、ロマネスコと同じようにローマの帝国で栽培されていた野菜の一つであった記録が残っている。
しかし、多く栽培されるようになったのはそれから年月が過ぎた1923年にアメリカカリフォルニア州にイタリアから生産者が移民してきてからだ。その後、第二次世界大戦後のアメリカ軍の駐屯を機に世界中に広まり、1960年代に日本でも栽培が始められた。キャベツや人参など江戸時代に伝来したものと比べると、比較的新しい野菜だ。
日本で品種改良されたブロッコリーには面白い名前の品種が多い。1980年代には「ショウグン」「マラソン」などの品種が誕生。その後「緑嶺(りょくれい)」「緑帝(りょくてい)」などなかなか厳つい名前の品種が誕生する。そして、2001年「ピクセル」という名前のブロッコリーが開発された。この品種は今まで難しかった高温期の栽培が可能になり、更に国内出荷の増加を促した。
日本だけでなく、世界でもブロッコリーの生産、消費量は増え続けている。
そのうちの大きな要因は「健康にいいから」。単純な理由であるが、特にアメリカ人に多い結腸がん予防にブロッコリーのビタミンCが効果があるという研究結果が発表されてからはその需要は一気に増えた。
カロリーや量の多いイメージのあるアメリカ料理だが、近年の物価高に伴い病院の入院、通院費もかなり上がっている。肥満や糖尿病を始めとして太りやすい食事に慣れていたアメリカに住む人々は少しでも自身の体を気遣い病気になりにくくしようと、健康にいい、ヘルシーな食事に気を使う人が増えているそうだ。
また、近年では中国でも需要が増えている。流通網の整備によって新鮮なブロッコリーが食べられるようになったことと、中華料理にブロッコリーが合うから、というのが主な理由のようだ。
日本でも筋トレやボディビルを行う人は鶏の胸肉と共に茹でたブロッコリーをよく食べている人は多いのではないだろうか。
というのも、ブロッコリーに含まれるビタミンB1、ビタミンB6、そして前記したビタミンCが豊富なこと、野菜の中ではタンパク質が多いこと、男性ホルモンのテストステロンが含まれていることが筋肉をつけやすくすると言われている。
ビタミンCに至っては、代表格であるレモンよりもその含有量が多いのだそう。野菜なのでカロリーも少なく、ダイエッターやトレーニーには欠かせない食品だと言えるだろう。
日本では通年食べることのできるブロッコリーだが、実は冬〜初春が旬である。スーパーに行くと生のブロッコリーが青果コーナーに積み上げられ、青々と蕾を広げて置いてある。普段は食べない人も、ぜひこれを機に旬のブロッコリーを手にとってみてはいかがだろうか。
参考
Episode 05 ブロッコリー|サカタのタネ 100周年記念特設サイト PASSION in Seed 100 years
なぜブロッコリーは筋トレ民に人気なのか?高タンパク質に注目【管理栄養士監修】 | 健康 ×スポーツ『MELOS』
朝日新聞 1/30 天声人語「ブロッコリーが指定野菜に」
2024/02/02 08:28