食べ物を扱う私達にとって、お客様の口に入る食べ物には特別な想いがある。そして、お客様も特別な時間を過ごすために、時間とお金をかけて私達の料理を食べに来てくれる。しかし、その食べ物は時として「毒」となり得ることがあることを、同じ料理人である私たちはよく知っていると思う。今回は「アレルギー」についていくつかの要点や私自身の経験を元にまとめてみた。

アレルギーと聞いて最初に思い浮かぶものはおそらく「花粉症」だろう。花粉症は現在の日本人の3〜4人に1人(42.5%2019年調べ)が有病しているアレルギーである。しかし、私たちが気になるのは「食物アレルギー」だ。
私自身も、幼少期に多くのアレルギーを発症していた。花粉症、猫、犬、小麦、卵、乳製品である。「?」と思う方もいるかもしれない。私の今の職業はパティシエであり、現実に日々小麦、卵、乳製品にまみれて生活をしている。幸い、母親が保育園教師で知識があったことと、学校給食での適切な食事で、アレルギー発作に関して大きく不便をした記憶はない。さらに運がいいことに、私のアレルギー発作は呼吸器や意識障害に影響するものではなく、部分的な蕁麻疹が出るものであったことと、それが軽度であったことが影響してか、中学に上がる頃には犬、小麦、卵、乳製品のアレルギーは治っていた。今の職についているのは、もしかしたら美味しい物が食べられなかった幼少期の反動なのかもしれない。

◯食物アレルギーに該当する表示食品
食物アレルギーには記載が法律で定められた8品目と記載が推奨されている20品目があり、それぞれの食物は以下の通りである。

・特定原材料(表示義務)
えび    かに    くるみ    小麦    そば    卵    乳    落花生

・特定原材料に準ずるもの(表示推奨)
アーモンド    カシューナッツ    大豆    ごま    アワビ    イカ    いくら    さけ(サーモン)    さば    牛肉    豚肉    鶏肉    松茸    山芋    ゼラチン    オレンジ    キウイフルーツ    バナナ    もも    りんご

また、表示義務のある食品は加工食品や添加物に限られ、店頭販売やテイクアウト、レストランでの食事に表示義務はない。(一部例外あり)
また、アレルギーを引き起こす食べ物は千差万別であり、ここで挙げた食べ物以外にもアレルギーを発症する人がいることを覚えておいてほしい。

◯アレルギー発症の仕組み
そもそもアレルギーとは、自己に入ってくる食品に対して身体が「異物」と判断した食品成分(主にタンパク質であり、アレルゲンと呼ぶ)に対してIgE抗体が作られるところから始まる。元々は体に入ってくる細菌、ダニ、ウイルスなどをくしゃみや咳、涙によって排出するために作られる抗体だが、人によっては安全なはずの食べ物を異物と認識し、IgE抗体が作られ肥満細胞表面にあるIgE抗体受容体と結合してしまうと、アレルギーを引き起こす。
次に異物と判断された食品を食べた時に肥満細胞表面に結合しているIgE抗体を刺激し、肥満細胞に含まれているヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が細胞外に放出される。
ヒスタミンは痒みや皮膚の赤み、蕁麻疹、気管支喘息、鼻水やくしゃみなど多様な症状を引き起こす。ロイコトリエンは鼻詰まりに関与している。

ヒスタミンは外傷、熱傷などの物理的侵襲、毒物、薬物などの化学的侵襲に非常に強く、アレルギー反応を促進するだけでなく、アナフィラキシーや食中毒を起こす。
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◯アレルギー症状
軽傷...部分的な皮膚の炎症や消化器官の弱化、気だるさ
中等症...全身の皮膚の異常、軽い息苦しさ、眠気
重症...全身の皮膚の強い異常、喘息、意識の消失

アレルギー症状の90%は皮膚症状であり、30%は呼吸器官や粘膜に症状が出る。
症状が複数現れることをアナフィラキシーといい、さらに血圧低下、意識障害など急激に全身の症状が進行する場合をアナフィラキシーショックという。
重症、アナフィラキシーショックの場合、生命の危険もあるのですぐに薬の摂取かアドレナリン注射を行う。

◯特殊な食物アレルギー
・食物依存性運動誘発アナフィラキシー
特定の食べ物を摂取した後に運動をするとアナフィラキシーが発症する。主に少年期から青年期に発症することが多く、発症例が多いのは小麦と甲殻類である。アレルギー物質を食べただけでは症状は発症せず、30分〜4時間以内に運動をする、入浴をする、発汗することにより誘発される。

・口腔アレルギー症候群
特定の野菜やくだものを食べると口周囲が赤くなる、口内の腫れ、喉の痛みや違和感が生じるなどの症状が見られる。アレルギー原因物質が口腔内の粘膜に触れておこる反応で、植物が病原菌による感染や傷害、ストレスから身を守るための生物防御として生成されるタンパク質が原因とされている。口腔アレルギー症候群の原因タンパク質は小腸に達する前に決壊する。

◯治療と対策
現在のアレルギー対策として最も有名なのは薬局などで購入できる第二世代抗ヒスタミン薬である。商品名としては「アレジオン」や「アレグラ」、「コンタック」などがあり、花粉症だけでなく皮膚の蕁麻疹やかゆみに効果がある。
喘息などの呼吸器疾患には気管支拡張薬の吸引を行う。
アナフィラキシーなどの重度の疾患を持ち、意識障害や重篤の可能性がある場合はアドレナリンの治療注射が必要になる。アドレナリン注射(エピペン)は患者自身が打つ物になるが、医師の指導を受け正しい打ち方をしなくてはならない。

アレルギー克服の治療として、アレルギーの元となるタンパク質を少量ずつ摂取して慣らしていく方法が提唱されているが、治療法としてはまだ実験段階であり、まだ治療法としては確立されていない。


◯まとめと感想
・ケーキだけを売るパティスリーでアレルギーを意識することは少ない。作ったケーキの食べられる、食べられないを判断するのは作る側ではなくお客さまだからだ。接客の店員は聞かれるかもしれないが、普段の仕事でそのお客様に合わせてケーキを作るという機会は少ない。
2年前、私は個人店のパティスリーから結婚式場に転職をした。多くのことが変わったが、その中でもお客様からのアレルギーリクエストに対応することは初めての経験だった。自分にアレルギーがあった経験もあり、さまざまなアレルギー対応商品を作ったし、さまざまなアレルギー原因食品を調べた。パティシエが恐らく1番手詰まりになるのは乳製品と果物全般の複数アレルギーだろう。未だそのアレルギーを持つ方への対応はしたことがないが、もしあなたがそのようなメニューを考えるならどんなものを作るだろうか。

・私の友人に40代になってから食物依存性運動誘発アナフィラキシーを発症した人がいる。原因食品は小麦で、初発症はラーメンを食べた後に歩いて帰った時だったという。それから彼の生活は一変してしまったが、今では味の濃い外食をやめ、グルテンフリーのパスタをネットで探したり今まで作ったことのなかった豆中心のメキシカン料理を作ったりととても前向きで、最初は心配していた私の方が新しい料理を教えてもらったり元気付けられていたりする。

・ケータリングなど不特定多数の人が出来上がった料理を食べる場合、料理の名前と一緒にアレルギー表示が任意でされている場合がある。私自身ケータリングやパーティーのウエイトレスのアルバイトをすることがよくあるが、この表示のあるケータリング会社の配慮にはとても感心した。

その人が生きる上でどうしてもついて回ってしまうアレルギー。私たちももっと知識を深めて、柔軟に対応できたのなら、食べる人だけではなく私たちの可能性を広げることにも繋がるかもしれない。

参考
石川大学    食品化学科    石川壮吾「食物アレルギーはなぜ起こる?」(2016年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aripu/2016/0/2016_5/_article/-char/ja/

医療法人明仁会定永耳鼻咽喉科「ヒスタミンとは?」
https://www.sadanaga.jp/topics/6775/

APアレルギーポータル
https://allergyportal.jp/knowledge/food/

食物アレルギーの歴史、定義、分類
国立病院機構福岡病院小児科    柴田瑠美子(2007年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/56/1/56_KJ00004494172/_pdf


これを書いてて自分が和梨の口腔アレルギー症候群だったことを思い出しました。あまりに和梨が好きすぎて幼少期に食べすぎたのが原因です。笑